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つげられた真実

「ねえ、いつまでそうやって手をつないでるつもりなの?」

ふいにかけられたアリスの声に我に返ったニコラスは、あわててケリーとつないでいた手を放した。

「あら、別にかまわないじゃない?」

ルーシーがからかうように言った。

「まあ、お楽しみは後にとっといて、とりあえず食事にしましょ」

ジュリエットの提案に全員がうなずき、ニコラスたちは、その場でかんたんに朝食をすませることになった。

戦いになれないニコラス、ケリー、トーマスの3人は蒸し暑さにたえきれなくなってヘルメットをぬいで、脇に置いた。
ニコラスがその金色の髪をひとふりしてからとなりを見ると、ケリーのあせにぬれた栗色の髪が、朝の日ざしを浴びてきらめいているのが見えた。
しかもケリーが自分を見つめていて、そのすきとおった白い肌をしたほおを、赤くそめていることに気づいた。

ニコラスが自分を見ていることに気づいたケリーは耳まで赤くなり、テレくさそうにうつむいた。
ケリーのその態度にニコラスまで赤くなってしまい、あわてて顔をケリーのすわっている場所とは反対側に向けた。

「はいはい、そこまでにしてね」

アリスのことばに笑いが巻き起こった。

「ねえねえ、ちょっと聞きたいんだけど。 あのさあ、ニックやケリーたちがでっかいゴブリンに使った魔法、あれってあんなに強力なの?
確か、イザベラは初歩の魔法だけしか教えられない、って言ってなかったっけ?」

ルーシーがあきれたような目でアリスを見て答えた。

「これって、魔法の授業で最初のころに習う初歩の知識じゃない。
何でいまさらこんなこと聞くかなあ。
しょうがないなあ、じゃあ、教えたげる。

たしかに、あれは初歩の攻撃魔法よ。
でもあのとき、3人はいっしょに魔法をかけたでしょ。
だから、パワーも3倍になったわけ。

でもいっしょに同じ魔法をかければ、いつでも3倍の効果が出るってわけじゃないの。
何人でかけても、効果の変わらない魔法もあるし。
ただ、攻撃用の魔法なら、それぞれを合わせだけのパワーが出ることはまちがいないないからね」

感心したような反応をみせたニコラスに対して、ルーシーはあきれたように言った。

「ニックまで感心してどうするのよ。
 そうか、……さてはふたりとも、授業サボってたなあ」

ニコラスとアリスは、笑ってごまかすしかなかった。

3人が話している間にケリーとジュリエットとトーマスの3人が、食事の準備を済ませていた。
食事をはじめてまもなく、ルーシーがニコラスに聞きたいことがあると話しかけた。

「え、何を?」

「ニック、あなたケリーとどこまで行ってるの?」

思わずむせ返るニコラスとケリーに、ルーシーは話しつづけた。

「ふたりの様子を見てると、キスぐらいしたのかな~ なんて思ってね」

赤くなって答えない二人に代わって、アリスが答えた。

「さっきみたいに手をつなぐくらいは、ときどきしてるみたいだけど、キスは全然してないみたいだよ~」

「あら、つまんない」

赤くなりながらもケリーがルーシーに言った。

「お姉ちゃんやめてよ!」

ケリーのことばを聞いて、ルーシーは笑った。

「はいはい、わかったから、そんなにおこらないで」

いったんふたりについての話を終えた後は、ルーシーが村の外で体験したことを聞いたりしながら、食事を進めていった。

しばらく休んだあとで魔法学校にもどったニコラスたちは、学校の入り口に兵士が立っていることにきづいた。
ニコラスたちが近づくと道を開けてくれたが、きつくケリーをにらみつけ、小さな声で何ごとかブツブツつぶやいていた。

ニコラスたちはその様子にいやなふんいきを感じながら、学校の中へと入っていった。

イザベラの部屋に入ったニコラスたちは、ベッドに横になっているイザベラを見ておどろいた。

「おばあちゃん!」

かけよろうとするケリーを、兵士の槍がおしとどめた。

「なにするんだ!」

ニコラスのどなり声を気にすることなく、兵士はケリーをどなりつけた。

「気安く近づくんじゃない、このハーフ・エルフが!」

部屋はいきなり静まり返った。

「どういうこと?」

ケリーはショックから立ち直れないまま言った。

「おまえはな、ブラック・フォレストから、そこのエルフやフェアリーといっしょに連れてこられた、捨て子のハーフ・エルフなんだよ!」

「ウ、ウソ!」

ケリーの顔が、みるみる青ざめていった。

「ウソなもんか!
 この村に住んでる者、みんなが知ってることだぞ!
 そこのガキもな!」

「ニック……」

ケリーはすがるような目つきでニコラスを見たが、ニコラスはうつむいてケリーの方を見ようとはしなかった。

「ウソよ……ウソ………絶対にウソ……おばあちゃんは、わたしのおばあちゃんよ」

目になみだを浮かべながら言うケリーに、だれも答えなかった。ケリーはその場にすわりこんでしまった。

「ニック……ホントなの?」

自分を見つめながら話すケリーに、ニコラスは苦しそうにうなずいた。

「うん……でも……」

ニコラスがなにかを言いかけたとき、ケリーの目からなみだがこぼれ落ち、ケリーは大きな声で泣き出した。ニコラスはだまって、ケリーをだきしめた。

その時ふいにドアが開かれ、なにがあったのかと言って、金色のかみの白いローブを身に着けた、ふくよかな女性が入ってきた。
兵士はその女性を見ると、直立不動の姿勢をとって言った。

「小フェイン様!」

兵士のことばを聞いたニコラスたちは、いっせいにその女性を見た。

「ママ……」

なみだ声のケリーを見た『小フェイン』ことノーマ・フェインは、部屋のフンイキがおかしいことに気づいた。

「ルーシー、一体何があったの?」

ルーシーが口を開こうとしたとき、ケリーがノーマを見つめて言った。

「ママ……あたしママの子じゃないの?
捨て子のハーフ・エルフってホントのことなの?」

ノーマはおどろいてルーシーを見つめると、ルーシーはだまってうなずいた。

「ママ……」

ノーマを呼びながら、ケリーが近づこうとすると、兵士たちがケリーの前に立ちはだかり、槍をつきつけた。

「おやめなさい!」

ノーマの声に兵士たちは槍をおさめずに、言った。

「そうはまいりません!
 大フェイン様がこのような大ケガをなさる原因を作ったのは、この者なのです!
 小フェイン様がなんとおっしゃろうと、見のがすわけにはまいりません!」

それはちがうと言うノーマに対して、兵士は何がちがうのかと、つめよった。

「この者が日ごろからむねに下げている指輪!
あの指輪こそが災いのみなもと!
そしてこの者がその指輪を持っているかぎり、災いは終わることがない、だれもが知っていることです!」

ふいにノーマはふきだし、大きな声で笑い出した。
その場にいたものはみんな、あっけにとられてノーマを見つめていた。

「ママ……?」

ようやく笑いのおさまったノーマはケリーを見つめると言った。

「ごめんなさい。
 この男があまりにもマヌケなことを言うものだから、おかしくって……」

そしてふいに兵士を見て言った。

「ケリーの持っている指輪は、ニコラスとの婚約指輪よ。
ケリー、ニック、指輪を出して」

ふたりは言われるままに指輪を取り出した。

「見なさい、サリーズの印の付いた婚約のための指輪よ」

兵士は指輪を見つめたあとで、ノーマにたずねた。

「ではなぜこのような事件が起こりつづけるのですか?
 この者に関係がないと言いきれるのですか?」

「それについてはレオナルドが調べているので、じきわかるでしょう。
 ……さて、ケリー今度はあなたのことなんだけど……」

ノーマは言いにくそうな顔を見て、ケリーは悲しそうな顔をした。

「ホントのことを教えて」

ノーマはうなずくと、思い切ったように話しはじめた。

「ケリー、確かにあなたは、わたしの子供ではありません。
でも、私のいちばん大事な親友の子供なの。
15年前に行方不明になった親友、クラリッサ・キニスンとキムボール・キニスンのひとりむすめ、それがあなたなの」

-15年前、エルフの里-

「クリス、キム、いる?」

プラットホームの下から聞こえてきた声を聞いて、くり色のかみに茶色のひとみ、細身ながらもきたえあげられたからだつきをした20代の青年、キムボール・キニスンは下をのぞいてみた。

「ノーマ、レオ!」

そこにはエルフの兵士たちと共に赤いかみに赤いひとみ、細身の体を灰色のローブで包んだ青年、レオナルド・フェインと妻のノーマ、そしてふたりのむすめ、ルーシーが立っていた。
キニスンはすぐにナワバシゴを下ろし、ふたりを自分たちの家へとまねきいれた。

「クリス! クリス!
 ノーマとレオがルーを連れて、来てくれたぞ!」

キニスンのあとについていくと、ベッドから起き上がり、赤ん坊をだいたクラリッサの姿があった。

「いらっしゃい、ノーマ、レオ、それにルーちゃん」

クラリッサは3人の姿を見ると、ほほえんだ。

「おめでとうクリス、女の子ですって?」

ノーマがくだものを入れたカゴをキニスンにわたしながら言うと、クラリッサはほほえんで言った。

「ええ、ケリーって言うの。  ルーちゃんのいい遊び相手になりそうよ」

クラリッサのことばを聞いたルーシーが、ケリーに近づいて言った。

「ケリーちゃん、早く大きくなって、いっしょに遊びましょうね」

レオナルドは、その光景をほほえみながら見つめていたが、背後に冷たい気配を感じてふりかえってみた。
するとそこには、先ほどのエルフの兵士たちがレオナルドたちめがけて矢をつがえたまま立っているのが見えた。

「何をするんだ!」

さけんだレオナルドに兵士の一人がにらみかえして言った。

「それはこっちのセリフだ!」

声のした方をふりむくと、そこには白いゆったりとしたローブをまとった、ふたりのエルフが立っていた。

「長老、これはいったい?」

「だまれ! よくも今までわれらをだましてくれたな!」

キムのことばをさえぎって、長老はどなった。やがて長老のうしろから、一人の人間の兵士がヤリをつきつけられながら連れられてきた。

「この者から聞いたわ!
おまえたちがわれらの集落に入りこんだのは、クレッセント・クリスタルを手に入れるためだったとな!」

クレッセント・クリスタル、それは手のひらにかくれるくらいの大きさで、まるでオリンパス山のふもとの泉のようにすきとおった、青い三日月の形をしたクリスタルのことである。
人間たちの間ではエルフの長生きの秘密であり、クリスタルを手に入れた者は永遠の命を手に入れられる、と語られているのだ。

レオナルドは自分たちの王、ウィリアム13世がクレッセント・クリスタルに強い関心を持っていたことを思い出し、とらえられた兵士にむかって言った。

「おまえがわれらの後を追ってきたのは、陛下のご命令か!」

「むろんだ!
 エルフの長命の秘密たるクレッセント・クリスタル、陛下のために何としても手に入れねばならぬのだ!」

兵士のことばにレオナルドは目を閉じ、上を向いた顔をおおいながら言った。

「血迷われたか陛下……」

おかしなふんいきを感じとったのであろう、ふいにケリーが泣き出し、クリスはケリーを強くだきしめた。

「ウィリアムはよき家臣を持ったことよ……」

長老はレオナルドに対して皮肉めいた口調で言うと、すぐにどなりながら次のことばをつづけた。

「だがな、われらの長い命はオリンパスの王たるジュピター様がお定めになったこと!
 クリスタルに命を長らえる力はないわ!」

「おまえたちエルフこそウソをつくな!
ならばなぜ、そのクリスタルを大事にする!
それこそ、クリスタルに大いなる力が秘められている、何よりの証ではないか!」

兵士のことばを聞いた長老は、あきれたように言葉をつづけた。

「これはただのお守りに過ぎぬと何度言えばわかるのだ! お主たちの王は!」

「ならば何故われらの王にそのクリスタルをわたさぬ

王はおっしゃっておられるぞ! かつてその言葉にだまされたとな!」

兵士は長老をにらみつけ、はきすてるように言った。

「うばっていったではないか! 数えきれぬほど!」

兵士は、どなり返す長老をさらに強くにらみつけて言った。

「ニセモノをつかませておいて何を言う!」

兵士の言った言葉に長老は少しの間だけ返す言葉を失ったが、すぐに兵士をにらみつけて言った。

「……ニセモノだと? デタラメを言うな! あれはまぎれもなく、本物のクリスタルなのだぞ!」

「ふん、神官が言っていたぞ! 『このクリスタルには特別な力は感じられない』とな」

兵士の言葉に長老は返す言葉がなかった。
なぜなら、クリスタルに特別な力は感じられないといった神官の言葉に、ウソはないからだ。
元々クリスタル自体はマジックアイテムでもなんでもないのだ。
その輝きを低級魔族がきらっているので、お守りにしているだけなのだ。

だが兵士はそのことがわからずに、クリスタルをマジックアイテムだと考えている。
そしていくら真実を言ってもそのことを信じない。
そうであるなら、これ以上どうやって話をしたらいいというのだ。
長老は完全に兵士に話す言葉を失ってしまった。

そして長老のその思いがわからない兵士は、長老が言葉を失ったのを見て、真実をあばかれたために言葉を失ったのだと思ってしまった。

「おい、ウソつきのエルフども、本物を用意するなら今のうちだぞ。
もうじきわが軍が、ここに来るのだからな!」

兵士が大きな声で笑い出すと同時に、部屋に重苦しい空気が流れた。

-15年後、イザベラの部屋-

「……その夜、エルフの里は兵士たちにおそわれて火の海になってしまったの。
見はりがだれもいなくなったので、わたしたちが部屋から出ようとしたの。
とにかく地上におりようとナワバシゴをおろして、まだからだの調子のよくなかったクリスからあなたを預かって、わたしが先に下へおりたの。
ところがクリスたちの番になったときに矢が飛んできて、兵士たちの近づいてくる音と声が聞こえたの。
ほかの場所からおりるというキムの言葉を信じて別れたんだけど、ふたりとはそれっきり会うことはできなかったのよ」

ノーマの話が終わるとすぐにケリーは聞いた。

「ママたちは死んじゃったの?」

ノーマは首をふって答えた。

「わからない。
でもわたしは信じている、ふたりは生きているって。
だからケリーもパパやママのことを信じてあげて」

目になみだをためながら、ケリーはうなづいた。
その様子を見て安心したノーマは兵士の方をむいて言った。

「たしかにケリーはハーフ・エルフよ。
でも今のこのありさまをまねいたのは陛下のせいだということを、忘れないでおいて」

「そんなことが信じられるものですか!
いいでしょう、もうまもなく陛下ご自身がこちらへ参られます。
そのときにその言葉が正しいかどうかを判断していただきましょう」

ふいにそこへ、ひとりの男が現れた。
黒づくめのローブに身を包んだ、イザベラと同じぐらいの年の、やせた男。
王宮につとめている、カーターという名前の魔術師だった。

「これはこれは、みなさんおそろいで。
おや、大フェイン様はお休みですか」

「大フェイン様は森で大ケガをなされたので、魔法でお眠りいただいております」

兵士の言葉にカーターは笑って言葉をつづけた。

「ならちょうどよい。
大フェイン様にはもうしばらく眠っていただくとして、ウィリアム13世陛下からの言葉をお主たちに伝えよう。
『ジェミーナ村の者は、かくし持っているクレッセント・クリスタルを差し出すこと。
さもなくば村を焼き打ちにする。期限は《日がしずみきるまで》とする』
以上だ」

言葉を終えるとカーターは呪文を唱えて姿を消した。
カーターの残した言葉にその場にいるすべての者の表情がこおりついた。

やがてノーマが兵士に近づいて言った。

「どうします? 陛下はあなたたちもろとも、この村を焼き打ちにするつもりですよ。
ふたりの持っている指輪がクリスタルにちがいないと思っていたのでしょうが、見てもらったとおり、指輪はクリスタルではありません」

「ウソだ、ウソだっ!
陛下はわたしに約束してくださったんだ!
わたしを代官にしてくださると!」

「あの男がそのような約束を守ったことなど、一度もないわ」

声のした方をふりかえってみると、イザベラがベッドの上でからだを起こしていた。
眠りの魔法が聞いているはずなのにと言う兵士に向かって、ある程度回復すれば魔法は解けるとイザベラは答え、さらに言葉をつづけた。

「ワシが城でのつとめをやめてこの村に来たのは、あの男が信用できなかったからじゃ。
あの男は伝説の古代王国リルガミンの王、トレボーのように力を求めつづけておる」

イザベラはケリーに気がつくと、弱々しくベッドから起き上がり、ほほえみながらケリーに近づいていった。
だがケリーはおびえたような表情でイザベラを見つめ、その場から一歩も動こうとはしなかった。

やがて、すぐそばまでたどり着いたイザベラにだきしめられるとケリーは、まるで止まっていた時が動き出したかのように、大きな声を上げて泣き出した。
イザベラはそんなケリーをやさしく見つめながら、強くだきしめていた。

そんな時、ふと我にかえった兵士がイザベラに向かってさけんだ。

「いけません! そんな、けがらわしいハーフ・エルフにおさわりになるなんて!」

その言葉を聞いたイザベラは、兵士をバカにしたような目で見て言った。

「けがらわしい……か。なら、わしもハーフ・エルフじゃと言ったら、なんとする?」

兵士は声も出ないほどおどろいた様子で、イザベラを見つめた。
そしてブルブルとふるえ出し、言葉にならない声でさけんで部屋を飛び出していった。

やがてイザベラはケリーの方を見て言った。

「もういいかな?」

ケリーはなみだをすすり上げると、イザベラに言った。

「おばあ……ううん、校長先生もハーフ・エルフなの?」

イザベラは頭を横にふると、ハーフ・エルフを差別する兵士をおどかすために言ったと答えた。

「でも母さん、あんなこと言って、だいじょうぶなの?」

ノーマが心配そうな顔で言うと、あんな男に何ができるものかと笑いとばした。

「そんなことよりノーマよ、すぐに出かけるから、ニコラスの家族を連れてくるんじゃ」

ノーマは何か気づいたようにおどろくと、ニコラスとケリーを見てほほえみ、部屋を出て行った。

「それから、お主たちはわしといっしょに、こっちにくるんじゃ」

そう言ってイザベラはふらつく足どりで、部屋を出て行った。
ニコラスたちがあわてて追いかけると、イザベラはひとつのとびらの前に立っていた。

「お主たちにはここで身じたくを整えてもらう。
だいたいの武器や防具はそのままでいいじゃろうが、わしがもう少しいい物を見立ててやるとするかの?」

しばらくしてイザベラの部屋にもどってきたニコラスたちは、部屋で待っているノーマやニコラスの家族と顔をあわせた。

「さて、これからサリーズの神殿に行って、そこからお主たちをにがすんじゃよ。
村にいるエルフ族はお主たちだけ、となればあの王がお主たちをだまって見過ごすわけがなかろう。
サリーズの神殿にはこんなときのための秘密のぬけ道が用意されておるんじゃよ。
お主たちをこの村に連れてきたとき、いつかはこんな日がくると思ってな、ひそかに用意しとったんじゃ」

イザベラはどうするのかとたずねるケリーにイザベラは、自分はここに残ると答えた。
みんないっしょじゃなければイヤだと言うケリーに、イザベラはなだめるような声で言った。

「これだけの大人数では、すぐ追っ手がかかってしまうじゃろ。
それにな、わしらが残っておかんと、お主たちが安全な場所まで行く時間をかせげんのじゃ」

その言葉におどろいたニコラスがイザベラに言った。

「へ? じゃ、なんでオヤジやオフクロたちまで呼んだのさ?」

イザベラはノーマたちの方を見てほほえむと、ニコラスに言った。

「お主たちの結婚式を行うためじゃよ。
といっても、たいした時間は取れんので、あとで正式にやり直す必要のある、仮のものじゃがな」

ニコラスとケリーはその言葉を聞くと、耳までまっ赤になった。
その様子を見たイザベラはイジ悪そうにほほえむと、言葉をつづけた。

「それからな、文句を言ってもムダじゃぞ。
こんなことがなければ、来年の春にでも結婚させようということで話がついとったんじゃからな。
さて、ここでいつまでも話していてもしょうがない、さっさと神殿に行くぞ」

一行は大きな音を立てないようにしながら、できるだけの急ぎ足で神殿にむかった。
神殿に着いてみると、神官が一行を待ちかまえていた。
神官の案内で中に入ると、すでにノーマの連絡で結婚式の準備が整えられていた。

短い時間ながらもおごそかに結婚式が終わると、ふたりにサリーズの刻印の入った指輪がわたされた。
おたがいの指に指輪をはめると、神官は言った。

「これにて、式は終わります。
ですが、あとで改めて正式な式をとりおこなうようにしてください。いいですね」

ふたりはうなづくと、イザベラたちの方をふりかえった。

「うむ、これでよい、これでよい。
おっと忘れるとこじゃった、その指輪は神官のゆるしを得て魔力をこめてあるんじゃ。
わしらが使うツエのように、魔力をおぎなってくれるアイテムとしても使えるのじゃ、ケリーはな。
ニコラスもまじめに勉強しておれば、指輪にこめられた魔力を使えたのじゃが、いまさら言ってもしかたあるまい」

一行は神官の案内で、ひとつのとびらの前に連れてこられた。
イザベラの呪文でとびらが開けられると、暗く、長いどうくつが見えた。
イザベラがふたたびび呪文をとなえると、どうくつの中の魔法のたいまつが輝きだし、どうくつの中をてらしはじめた。
ニコラス、ケリー、トーマス、ジュリエット、アリシア、ルーシー、アランの7人が中に入っていくと、イザベラが卵くらいの大きさの石のような物をルーシーに手わたして言った。

「よいか、どうくつの出口に着いたら、これを中に投げ入れるのじゃぞ。
そうすればこのどうくつは、くずれて通れなくなるからな」

ルーシーはうなづくと、石のような物、《マジック・ボム》をにぎりしめた。
その様子を見たイザベラは呪文を唱えてとびらを閉めた。
ケリーはとびらの閉まる様子を見ていたが、ガマンできなくなって顔をふせ、ニコラスにだきついた。

ネット文庫《ミナーヴァ》(C)2001-2017、三浦 郷(m-hiratsuka@nifty.com)
2002年8月17日(土)作成、2017年1月15日(日)改訂

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