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2001年9月

はじまりの夜

ジェミーナは険しい山々の谷間に、ひっそりとたたずむ村である。
まじないに強いジェムヒツジの毛が特産品であり、谷間にもかかわらず土地そのものはかなり広い。
だが、谷の入り口には王の住む都があるため、街道も村までは入りこまない。
なので、村に来るのはジェムヒツジの毛を買いに来る商人の使いが、ほとんどである。

春、厳しい冬をこした村にも、暖かな雪どけの時期が来た。
雪に埋もれていた小川も顔を出し、凍り付いていた木の枝の先に水のしずくがきらめく。

そこかしこに小さな生き物が姿を見せていた。
雪が溶け落ちた枝には、小鳥が顔を出し、春がきた喜びを歌いだす。
小川では魚が川面ではねまわり、木々におおわれた山の斜面にも小さな影が見え隠れしていた。

村はずれのサリーズの神殿でも、今年の豊作への願いをこめた様々なささげ物が納められていた。
祭壇には今年の冬をこせたお礼としてジェムヒツジが、大地の女神サリーズへささげられている。

そんな神殿の近く、神殿より少しだけ小さな建物から、小柄な人影が走り出してきた。
かみの毛は金色で少しやせぎみ、イタズラこぞうのフンイキを残した顔つきの灰色のひとみの15才くらいの少年。
すぐ後から赤いひとみに赤いかみ、水色のローブをまとったふくよかな60才くらいの年配の女性が、少年を追いかけて建物から出てきた。

「こらっ! ニック! 待つんじゃ!」

その女性は村の長老であり、かつては王様の相談役をつとめたこともあるイザベラ・フェインであった。

「ヤだねったら、ヤ~だね~」

少年はそう言うと、祭りでにぎわう人ごみの中へ消えていく。
イザベラはため息をつくと出てきた建物、この村の子どもたちに学問を教えるための学校の中へともどる。

本来なら、ジェミーナのような小さな村に学校が建てられることはなく、せいぜい10日に一度くらいの割合で、周辺にある大きな都市から教師が来るのがふつうである。
にもかかわらずジェミーナに学校が建てられたのは、イザベラのおかげであると言ってもいいのだ。

このあたりの国の大きな町には必ずと言っていいほど学校が建てられていたが、それには別の理由もあったのだ。

その理由とは、魔術師組合が魔法の研究を行うための施設を用意することと、才能のある子供を見つけ出し魔法を教えるという魔法教室を開くことの二つであった。
子どもたちは学校に入ると同時に魔法の才能チェックが行われ、才能のありそうな子どもだけに魔法を教えているのだった。

魔法という力については、魔法の使えない人たちからオリンパス山に住む神々の力を借りていると思われている。
だがほんとうは、人の中にかくされている特別な力を引き出しているだけなのであり、その力の大きさもひとりひとりちがっていた。
そこで魔法について正しく理解させ、その力を使いこなすための訓練を行う学校が、どうしても必要になってくるのだ。

学校では魔法の基本的な知識から初歩の呪文までを教えていて、高度な呪文については魔術師組合に特別な授業料をはらって教わるようになっていた。
魔法教室の授業料はかなりの高額であり、貴族か裕福な家の子でもない限り授業を受けることはできなかった。

だがジェミーナ村については特例が認められ、村に住んでいて才能のある子であれば、だれでも授業が受けられるようになっていた。
今飛び出していった少年、ニコラス・ウィッカムもそんな魔法教室の生徒のひとりであった。
もっとも、ニコラスは魔法の授業にはほとんど出ずに、どこかで何か訓練をしているようだった。

「ニック、またカートさんのところへ行ったんだ」

イザベラがふりむくと、クリ色のかみでやせぎみ、すきとおるほどに色の白いはだをした茶色のひとみの15才の孫、ケリー・フェインが黒色のローブを身に着けて立っていた。
授業が終わったら、ニコラスを連れてきてほしいとイザベラが言うと、ケリーは青ざめて何の用かとたずねてくる。
孫のその顔を見て、優しくほほ笑んでイザベラは言う。

「安心せい。別にニコラスを退学にするわけではない。ちょっとたのみたいことがあるのじゃ」

「たのみたいこと?」

イザベラは大きくうなずくと、魔法教室に来ている者全員にたのみたいことがあると答える。

そんなことがあったとは知らず、ニコラスは人ごみをぬけて町外れの森のそばへと行く。
するとそこには、かぶとから黒いかみと灰色のひとみがのぞく、日に焼けた浅黒いはだの、きたえられたからだつきをした男が待っていた。

「カートおじさん、きょうもたのむよ」

男はうなづいて剣がわりの木のぼうをニコラスにわたし、自分も同じものを手にする。
やがて木と木のぶつかる音といっしょに、男のどなり声とニコラスのあげるさけびが、あたりにひびく。

「こらっ! 剣はただふりまわせばいいってものじゃない、ちゃんとねらいをつけて切りつけたり、 ついたりするものだっ!」

「ほらっ! どこを見ている! 相手の動きから目をはなすんじゃない!」

どなっている男の名はアラン・カーティスといい、ジェミーナ村を警備している兵士のひとりである。
きょうは警備の役目が休みの番になっている日なのだが、ニコラスにたのまれて剣のけいこをつけているのだ。

アランは警備兵の中でも有能な兵士のひとりで、剣のうでもかなりのものを持っていて王都で開かれた武術大会で何度も優勝している。
ニコラスに剣の手ほどきをしてほしいとたのまれたとき、一度は断った。
だがその熱心さにうたれ、一度だけテストをしてみる気になったのだ。
そのときに見たニコラスの身の軽さに興味を持ち、仕事が休みの日なら教えてもいいということになったのである。

昼近くから始められたけいこは太陽が森にかくれはじめるころ、終わることになっていた。
剣がわりの木の棒をふくろにつめたアランは近くにひとりの少女がいるのに気がつくと、ニコラスに言う。

「おい、カミさんのおむかえだぞ」

ニコラスはアランの差した方を見ると、ため息をついてポツリとつぶやいた。

魔法の授業をちゃんと受けなきゃだめじゃないかと、いまにも泣き出しそうな顔で言うケリー。
だが、ニコラスはふてくされたように、そんなのケリーに関係ないと答える。
だがそのとたんニコラスの頭を、大きな衝撃とともに激しい痛みが襲う。
何があったのかとあたりを見回すと、アランが真っ赤な顔でにらみつけていた。
よく見てみると、痛みの原因はアランがなぐりつけたものらしい。
何をするんだとニコラスが文句を言おうとすると、アランは大きな声でどなりつけた。

「おまえのことを心配して来てくれたんだろ!」

イザベラが呼んでたとケリーが伝えると、どうせまたお説教だろと言うと、ちがうと首を横にふる。

「ジュリーやトムも呼んで、何かたのみたいことがあるって言ってたよ」

何をするつもりだろうかと、ニコラスはふしぎな気持ちになっていた。

「それじゃ、また今度な。そうそう、魔法の勉強もちゃんとやっとくんだぞ。
じゃないとカミさんが泣くことになるからな」

アランは帰りぎわにそう言うと、笑いながらその場を後にした。

「だーかーらー、ちがうって言ってんだろ!」

だがニコラスのその言葉は受け流された。

「わかってる、わかってる、テレるな、テレるな」

そしてアランの笑い声だけがあたりにひびいていた。

ニコラスとケリーのふたりがイザベラの部屋に入ると、イザベラ以外にふたりの人物がニコラスとケリーを待っていた。
ひとりはとてもやせた、色白のはだに白いローブを身に着けた、青いひとみに金色のかみの少女、ジュリエット・カレン・コードナーであった。
ジュリエットは、15年前ケリーの母親がエルフの里から連れ帰り、サリーズの神官の家であずかってもらっている、エルフの少女である。
少女、とはいってもエルフは人間より長生きする種族であるため、見た目よりはるかに年上であり、イザベラと同じぐらいかもっと年上だと思われる。
もうひとりは黒かみでよく日焼けをしている、ジュリエットと同じ白いローブを身に着けた茶色いひとみの、少しポッチャリとした少年、トーマス・ウェブスターであった。
トーマスはジュリエットがくらしているサリーズの神官の子供であり、ジュリエットとは姉弟のようにくらしているのだ。

「おそ~い! いっぱい、いっぱい、待ったんだからね~!」

ふたりが声のした方にふりむくとそこには、大人のひざあたりまでの大きさのフェアリー、アリシアの姿があった。
アリシアは背中からはすきとおった羽が2枚はえていて、色白のはだに金色のひとみをしていて、波打つようかみも金色だった。
本来フェアリーは何も身につけていないのがふつうだが、アリシアはジュリエットの作ったうす緑色の服を身に着けていた。

ふたりっきりで、ゆっくりしていたかったんじゃないかというジュリエットのからかいに、ふたりは赤くなる。

「ほれほれ、おしゃべりはそこらへんでやめといてもらえんかの?
大事な話もあることじゃし」

そのことばを聞いて、全員がイザベラの前にならんだ。

「それで、おばあちゃん、みんなを集めて何の用なの?」

ケリーのことばをイザベラがたしなめた。

「これ、学校にいるときは校長先生と呼ばないか」

そのことばを聞いたケリーは、肩をすくめた。

「きょうはの、おぬしらにたのみたいことがあって、集まってもらったんじゃが、その前に話しておくことがあるんじゃ。
実は、ここのところジェムヒツジの数がへってきておって、みんなこまっておるんじゃ。 
最初のうちは、小屋のカギのかけ忘れでどこかへにげてしまったのかと思っておったんじゃが、どうも何者かに連れていかれてるらしいんじゃ」

「な~んだ、何かと思ったらタダのドロボウじゃない。
そんなの警備の兵士に言って、さっさと捕まえてもらえばいいじゃない」

アリシアはそう言って、イザベラのまわりを飛びまわった。

「ところがタダのドロボウではなかったのじゃ。
どうやらジェムヒツジを連れ出したのはゴブリンのようなのじゃ」

「ゴブリンですって!」

ケリーはおどろきのあまり、みんながいることも忘れて大きな声でさけんだが、自分の声の大きさにおどろき、小さめの声でことばをつづけた。

「なんでまたあいつらがジェムヒツジを?」

だがケリーがおどろくのも無理はない。
ゴブリンたちが人間の村に入りこんでくることなど、ふつうならありえないことだからだ。
ゴブリンたちが住んでいるのは人間の町や村からはなれた場所にある、どうくつや鉱山の中なのである。
ちなみにゴブリンとというのは、全身毛むくじゃらで、7~8才ぐらいの子供と同じ背たけの、悪いイタズラばかりをする妖精の仲間のことである。

ケリーのつぶやきに、イザベラは頭を横に振ってから答えた。

「なぜなのかは、わしらにもわからん。
だがわかっておるのは、やつらが『ブラックフォレスト』へジェムヒツジを連れていったということだけじゃ」

「でさ、あたしたちは何をすればいいの?
あ、もしかして、あたしたちにジェムヒツジを取り返してほしいってこと?
ムリムリムリ!
ぜ~ったいにムリ!
ニックとケリー、それにあたしはマトモに魔法が使えないのよ!
そんなんでゴブリンなんかに勝てるわけないじゃない! 」

まくしたてるアリシアにイザベラは言った。

「そうではない、おぬしたちにたのむのは、別のことじゃ。ブラック・フォレストには近くのとりでから手助けに来た兵士たちといっしょに、わしらが向かう。おぬしたちは、わしらがもどってくるまでの間、ジェムヒツジを見張っていてほしいんじゃ」

ケリーの不安そうな表情を見たイザベラは、やさしくほほえんで言う。

「何も心配することはないぞ、ケリー。
見張りをするのはおぬしたちだけではないんじゃ。
ルーシーも来るし、ほかにも兵士を何人かよこしてもらえることになっておるからな」

「おねえちゃんが!」

ケリーの顔がたちまちのうちに明るくなる。ルーシーが来るなら安心だと、アリシアが飛び回る。

だか、もしかしたらゴブリンたちはこっちに来るかもしれないと、ジュリエットが口を開く。
そのためにルーシーに来てもらうことにしたと答えるものの、それだけでは不安だとルーシーが言いかける。

「わかっておる。そこで、おぬしたちに呪文を教えておこうと思う」

喜ぶケリー、ニコラス、アリシアにイザベラが注意をする。

「本来なら、おぬしたちに呪文を教えるべきではないのじゃ。
特にニコラスとアリシア、おぬしたちは魔法の大事な部分を理解しておらん。
おぬしたちがこのまま呪文を覚えてしまった場合、このあと覚えられない呪文が出てくるのじゃが、それでもいいのか?」

ニコラスとアリシアは顔を見合わせるとうなずいて、呪文が使えるようになるのならかまわない、と言った。

「よかろう、ではまずケリーからじゃ」

呪文を覚えるための儀式魔法がとなえられ、部屋がぼうっと明るくなる。
数時間かけて、ケリーには初心者用の呪文をすべて、そしてニコラスとアリシアにはそれぞれ二つづつ呪文がさずけられた。

それからまもなくニコラス、ケリー、ジュリエット、トーマス、アリシアの5人は、この日のためにジェムヒツジを集めておいた、さくのとびらの前に立っていた。

「おそいな~。ルーシーたちまだかな~」

アリシアが待ちきれない様子でつぶやくと、まだ来たばかりじゃないとジュリエットがあきれたように言った。

「だって~。やっぱりコワイもん。あ~、早く来てくれないかな~。ゴブリンが来たらどうしよう」

などと5人が話していると、ふいに女の人の声がしたのでふりむいた。
するとそこには、イザベラをそのまま若くしたような少女と、兵士が数人近づいてくるのが見えた。
ニコラスはその兵士の中に見覚えのある顔を見つけ、思わず呼びかけてしまった。

「カートおじさん!」

月も雲も出ていない夜空の下、かがり火だけがニックたちとそのまわりを照らす。
村はしんと静まり返り、ときどき聞こえるフクロウの鳴き声と、たき火の燃える音だけが、あたりに響く。

アランとルーシー、からだが小さすぎて何も防具を身につけられないアリスをのぞいた4人が鉄製の丸いヘルメットに布製の防具をつけていた。
さらにニコラスとジュリエットは片手用の軽くて短めの剣をベルトにつるし、スープ皿くらいの小さなたて(バックラー)を左手に持っている。
トーマスとケリーは2メートルくらいの長さの固い木のぼうに、初心者用の『選んだ物に魔力を補う力を与える魔法』をかけていた。
一方、アランは金属性の肩当て、胸当て、背当てがセットになった防具をつけ、『両手用だが、片手でも使えるくらいの長さ』の長い剣をベルトにつるしている。
ルーシーは厚手の革で作ったジャケットを身に着けて、ルーシーの武器はニックたちと同じくらいの短めの剣をベルトにつるしていた。

見張りは今晩一晩だけでよいのだが、全員が一晩中起きていてもしかたがないので順番を決めて見張りをすることに。
ルーシーとケリー、トーマスとジュリエット、アランとニコラスがペアを組んで見張りをしていた。
もっとも、アリスは一晩中起きていると言い張っていたものの、トーマスたちの番が終わるころにはグッスリと眠りこんでいた。

来るかなと、ニコラスがポツリとつぶやくと、アランは来ないにこしたことはないが、どうにも、もの足りない気がするとつぶやき返す。

「まあ、ここで考えていてもしょうがない、とにかく気をぬかずに…… 」

ふいに話をやめたアランにニコラスはたずねたが、アランは何も答えず静かにするように身ぶりで示した。

「どうやら来ちゃったようね」

いつのまに起きたのだろうか、ルーシーとジュリエットがうしろに立っていた。

「そうそう、将来あたしの弟になる予定のニコラス君、あなたの未来のお嫁さんを起こしてきてくれない?」

ルーシーがイタズラっぽくほほえみながら言うと、ジュリエットも同じ様にことばをつづけた。

「ついでにトムもお願い」

あわててニックがケリーたちのところへ行くと、ふたりはマントをはおって、ヒザをかかえこみながらぐっすり寝込んでいた。
アリスが必死になってふたりを起こそうとしていたが、まったく起きる様子を見せなかった。
ニックはあきれ顔で頭をかいてケリーの近くにしゃがむと、耳もとに顔を近づけてそっとささやいた。

「ごはんの時間だよ」

ケリーは目をぱちりと開くと、ニックをはじき飛ばして立ち上がった。

「え? どこどこ? どこにあるの?」

その声にトーマスも目を覚まし、寝ぼけたように何があったかと聞いた。
ニックが立ち上がって何かが近づいてきているようだと言うと、ふたりの顔におどろきの表情が現れた。

「とにかく、早くこっちに来て」

あきれるアリスを気にせず言い放つニックに従いルーシーたちのところへ急ぐと、すでに戦いが始まっていた。

「やっとお出ましね」

かがり火の元にもどってきたニックたちは、アランたちの戦っている相手がゴブリンであることに気づいた。
だが、戦場に入るタイミングをはかっている間に、どうもゴブリンの動きが変なことに気づいた。
見るとゴブリンの間を1匹のヘビが動き回り、ゴブリンの動きをまとまりのないものにしていた。

「行くよ!」

それがルーシーの魔法であると気づいたニックは思い切るように合図をだし、3人はゴブリンに向かう。
ただし、戦う力を持たないアリスだけはゴブリンの攻撃を受けないように、空高く飛び上がった。

兵士たちがブラックフォレストに向かったルスをねらってきたために、ゴブリンは全部で10匹ぐらいしかいないようだった。
それでもゴブリンの動きがすばやいため、アランとルーシー以外に実戦経験を持たないニックたちは、なかなかゴブリンをたおすことができないでいた。

ルーシーやジュリエットはときおり魔法の光を放っては、1匹、また1匹と、ゴブリンをたおしていった。
ぎこちないながらもニックたちはゴブリンをたおしていき、やがてその残りもわずかに3匹ほどになっていた。
だがニックはふいに背中に悪寒を感じ、右横方向にとびはね後をふりかえる。
するとそこには、ゴブリンをそのまま大人の人間サイズにまで大きくしたようなモンスターの姿があった。

「『ゴブリンジャイアント』か……」

つぶやくような声にニックが後をふりかえると、アランが息をはずませながら剣をかまえて立っていた。
ふと見ると、ゴブリンたちは新手のモンスターの後にかくれるようにして、暗やみの中へとにげていった。

「やっかいなヤツが来てくれたもんね」

ルーシーもまた、ゴブリンジャイアントをにらみつけながらニックのそばまで近寄ってきていた。
二人の気迫に押されているのか、ゴブリンジャイアントはうなりながらも近づこうとしなかった。
ニックは急いでその場からはなれると、ケリーのそばに近づく。

「だいじょうぶ?」

ニックはうなづくと、ケリーにほほえんでみせた。

「どうします?」

トムがニックに聞いてきた。

「うーん…… 」

その時にふいに大きなうなり声がしたので見てみると、アランとルーシー、さらにジュリエットまでがゴブリンジャイアントと戦っていた。

「今よ!」

ルーシーの声にうながされた3人は大きく深呼吸をすると、呪文を唱え、印をきざんだ。

「全能にして、天空を支配する、オリンパスの王よ、我にその大いなる力のかけら、わかち与えたまえ! 」

呪文が終わると同時に3人の指先からイナズマによく似た光が、ゴブリンジャイアントめがけて飛んでいく。
すると大きな爆発音と立ちこめる煙とともに、ゴブリンジャイアントの姿が消えたのだ!

「や、やったあ!」

3人は力つきたように座りこみ、おたがいの顔を見てほほえみあう。
アランの顔にもあふれんばかりの喜びがあった。

初めてにしてはよくできた方だというルーシーの顔も、ほほえんでいた。

「ま、こんなとこね」

アリスが感心したようにうでを組んでうなづくと、全員が大きな声で笑いあった。

ケリーは息を切らせながらニックの方を見、ニコラスも同じようにケリーの方を見ると、その手をケリーの手に近づけそっとにぎった。
やがて東の空が明るくなり、そそり立つ山々の姿が見えだしてくると、村の入り口にブラックフォレストに向かった兵士たちが、もどってくるところが見えた。

ネット文庫《ミナーヴァ》(C)2001-2017、三浦 郷(m-hiratsuka@nifty.com)
2001年9月24日(月)作成、2017年1月15日(日)改訂

ふぁんたじっく・トラベル

特殊な性質で有名な毛織物の生産で密かに知られる村、ジェミーナ。
その村に住む娘、ケリーには隠された出生の秘密があった。
そのことを知った少年が、ケリーや仲間たちといっしょに旅に出ることに。
はたして向かう先では、どんなことが待ち受けているのだるうか。

目次
話数副題初版投稿改訂
はじまりの夜 2001年9月24日(月) 2017年1月15日(日)
つげられた真実 2002年8月17日(土) 2017年1月15日(日)
ネット文庫《ミナーヴァ》(C)2001-2017、三浦 郷(m-hiratsuka@nifty.com)
2001年9月24日(月)作成、2017年1月15日(日)改訂

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