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D・Oのヘンリー・ヘンダースン

3つの銀河の中でも3本の指に入るほどの大きな運送会社、コズミック・ストリーム。
その本社は地球(テルス)から約300メガパーセクはなれたところにある惑星、クロヴィアにあった。

大陸の形こそちがうものの、その他すべてがテルスと同じ条件のこの星には、テルス人類とまったく同じ姿の人類がくらしていた。

三つの銀河をつなぐ場所にあるこの惑星には、数多くの運送会社があった。
そのうちのいくつかは銀河連邦全体にネットワークを持っていた。コズミック・ストリームはその中の一つだった。

ヘンリー・ヘンダースンはこの会社の社長であり、うでききのパイロットでもあった。

配達先からもどったヘンダースンは、さまざまなカードや器材が積み上げられ、まるでビルの谷間のようになっている通路を通り、いちばん奥の自分の部屋に入っていった。

ヘンダースンがこの部屋に来るのは、1か月に1回だけであった。
たまったデータを整理するためと、会社の役員たちと会うためであった。

会議が行われるまでの約2時間を利用して、ヘンダースンは作業を始めた。
データのバックアップをしているときにメールの着信メッセージが表示されたので、ヘンダースンはそのメールを読んでみた。

それは、銀河パトロールのクロヴィア基地からのメールだった。
ヘンダースンはメールをカードに転送するとすぐに、そのカードを手に部屋を出た。

とちゅうで縮れた赤い髪の毛の女性とすれちがった。
まるでファンタジーの世界のエルフの様な姿をしたこの女性は、役員の一人、セシリー・バードであった。
ヘンダースンは妻のイロナの次に、バードが苦手だった。

ヘンダースンが駐車場に向かっていることに気づいて、バードは言った。

「キャップ、じきに会議なのにどこ行くんです? イロナさんにしかられますよ」

うなだれながらヘンダースンは言った。

「すまない、急ぎの依頼が入ったんだ。二・三時間でもどると言っておいてくれ」

そう言ってふりかえると目の前に、イロナが立っていた。

「その分だと、依頼はキムから?」

イロナはあきれた顔で言った。ヘンダースンは無言でうなずいた。

「QX、では会議の開始時間を3時間のばします」

ヘンダースンとバードは、おどろいた顔でイロナを見つめた。
一呼吸おいてイロナは言った。

「ただし3時間待ってもどらなければ、ヘンリーぬきで会議をはじめます。QX?」

ヴァスカークのところへ行くともどらないことが多いため、イロナはクギをさした。

「ありがとう、必ずもどる」

駐車場についたヘンダースンは会社の車ではなく、自分の車に乗りこんだ。

それから車を20分ほど走らせたところにある、クロヴィアでも指おりの一流ホテルへと向かった。

木々のトンネルにおおわれたアスファルトの道を、ヘンダースンの車が走っていた。
ここはクロヴィア最大の都市、ウォーゼル・シティの中心部近くの道である。

かつてウォーゼル・シティでは1000万の人々がくらしていたが、今ではその人口も100万人ほどとなっていた。スペース・コロニーや、近くの惑星への人口の移動があったため、惑星クロヴィア全体でも10億人前後にまで減っていた。

発達したコンピューター・ネットワークが、大きな都市を無くしていったため、町が森
の中にかくれているように見せていた。
あらゆる場所にネットワーク接続のためのソケットが設置され、すべての住民にIDが割り当てられていた。

しかも異次元空間まで利用した惑星間通信のおかげで、その規模は銀河連邦全体に広がっていた。
そしてそのネットワーク経由で、あるうわさが広まっていた。

『パトロールや私立探偵が当てにならないときはD・Oにたのめ』

D・Oとは探偵事務所(ディテクティブ・オフィス)のイニシャルである。

そのD・Oこそが、コズミック・ストリーム社のもうひとつの顔である。
D・Oは、一般の私立探偵の手にあまるような依頼を受けつけいてた。
かつてヘンダースンは、すぐれた能力を持ったパトロールマンであった。ところがある事件を解決するさい、パトロール首脳部の犯罪行為を公にしてしまったのだ。
そのため、ヘンダースンはパトロールをやめることになってしまったのだ。

ヘンダースンが銀河パトロールをやめた数日後、ヘンダースンは銀河パトロールの資料
特別資料課から呼び出された。
ヘンダースンはそこで、ある人物に秘密の探偵事務所の所長になってほしい、とたのまれたのだ。
見たところ14・5歳ぐらいの少年の顔に、強い意志を感じたヘンダースンは条件付きで、そのたのみをひきうけることにしたのだ。

その答えに満足した少年が、少年の部下と思われる人物に指示を出すと、一枚のカードが届けられた。
それはパトロール専用ネットのIDカードだった。
ヘンダースンの探偵事務所に新しい探偵が入ったときには、少年に連絡すればその人物にもIDを与える、と少年は言った。

少年はカードを手わたすとき、ヘンダースンに告げた。
このようなことをたのんだ相手は、ヘンダースンたちだけではない。
もしこのカードを悪用するようなことがあったら、ヘンダースンたちは生きていられなくなる、と告げたのだ。

ヘンダースンは悪用しないことを少年にちかい、その場を立ち去った。ヘンダースンはすぐに、探偵事務所をかくすための会社を作り始めた。
それから10年が過ぎ、ヘンダースンの会社は連邦でも指おりの大きな会社に成長していた。
同時に探偵事務所のうわさも銀河のすみずみにまで広がっていた。

指定のホテルへ向かう途中、ヘンダースンはカードを胸ポケットから取り出した。
コンソールボックスのスロットに差し込むと、メールに記録された音声を再生した。
何度も聞いた友人の声が、車内に広がりだした。

「やあ、ヘン。ちょっと、たのみたいことがあるんだ。くわしいことはあってから話す」

ヘンダースンは、ひと言つぶやいた。

「またやっかいごとを持ってきたな」

だがヘンダースンの表情は明るかった。

ホテルのロビーでは、3人の男がヘンダースンを待っていた。
そのうちふたりはパトロールマンであることを示す、黒いツナギのような制服を着ていた。
残るひとりは民間人のようだった。
ふたりのパトロールマンは、するどい目つきであたりを見回していた。
だがそんな中で太った男と背の高い男は、何か言いあっているようだった。
声こそ小さかったが、太った男の声には怒りがこめられていた。

背の高い男の名前はキムボール・ヴァン・ヴァスカークといい、ヘンダースンがパトロールにいたころからの親友であった。
数年前からは艦隊司令となっていて、ヘンダースンによく仕事をたのんでいた。
もう一人の太った男は、ロナバールの基地司令ジョージ・ロジャーであった。
ロジャーは、今回のことをD・Oにたのむことに、反対していた。

ヘンダースンを待ちかねたロジャーはヴァスカークに話しかけた。

「なんであんな男にたのむのですか? われわれの調査が信用できない、とでもおっしゃるのですか?」

ヴァスカークは何度も同じことをくりかえし言うロジャーを、にらみつけて言った。

「信用できるから、アイツにたのむんだ」

「ですが…… 」

ロジャーが反論しかけたとき、ヘンダースンがロビーに入ってきた。
ヘンダースンはすぐにヴァスカークを見つけ、ロジャーのとなりに座った。

「で、今度はどんな事件の後始末だ?」

ヘンダースンはそっけない声で言った。

「悪いな。だがオマエ以外にたのめるヤツがいなくてね」

 ヘンダースンはあきれ顔で肩をすくめた。
ヴァスカークは、自分のとなりに座った男に目をむけて言った。

「しばらくの間、この男をあずかってほしい。ドライブ中の事故で記憶をなくしちまって、パトロール病院に入っていたんだ。だけど、ちょっとワケありで、病院においとけなくなったんだ」

ヘンダースンはため息をつくと、ヴァスカークに言った。

「パトロールもずいぶん親切になったもんだな。で、報酬は? 言っとくが、今回は高くつくぞ。生きている人間を預かるんだからな」

ふたりの会話を聞いていたロジャーは、ヘンダースンをどなった。

「だまって聞いていればいい気になりおって! キサマはわれわれの言うとおりにすればいいんだ!」

そのことばを聞いたヘンダースンは、片方のまゆを上げてロジャーに言った。

「人にものをたのむときは、それなりの礼儀ってもんがあるだろう? それにオレはキムに言ってるんだ。君にじゃない」

怒りの収まらないロジャーは、さらにヘンダースンをどなった。

「追い出されたくせに何をいうか!」

だがそのことばは、ヴァスカークの怒りを買っただけだった。

「ヘンの言うとおりだ。もはや問題は、君が口出しできるレベルではないんだ」

ロジャーは言い返そうとしたがヴァスカークににらまれ、おとなしくなった。
その様子を見たヘンダースンは、ヴァスカークに言った。

「やはりな。どうやらこいつはただの事故じゃないようだな」

ヴァスカークは頭を横にふった。

「わからない。だが、こいつには何か有る様な気がするんだ。それに…… 」

「それに?」

ヘンダースンはヴァスカークに聞いた。

「この男はオマエんところでさがしてるヤツじゃないかと思ってな」

ヴァスカークは一枚のカードをヘンダースンに手わたした。

ヘンダースンはそのカードをノートに差しこむと、ファイルの中身をノートへ写した。
しばらくたってから、ヘンダースンは写し終わったカードをヴァスカークに返した。
そのファイルを読んだヘンダースンの顔色が変わり、スーツの男を見つめた。
そしてヴァスカークにスーツの男を預かることにする、と言った。
そのことばを聞いたヴァスカークは、ほっとため息をつくと、ほほえんで言った。

「ありがとう、助かるよ」

それからソファーに深くもたれると、思い出したように付け加えた。

「そうそう、報酬についても心配しないでほしい。もしかしたらパトロールからも謝礼が出るかもしれないぞ」

その言葉を聞いたヘンダースンは、思わず苦笑いをした。

ヘンダースンはスーツの男に言った。

「オレは『コズミック・ストリーム』の社長で、主任パイロットでもある、ヘンリー・ヘンダースンだ」

そしてわずかにヴァスカークに目を向けると、話をつづけた。

「君にはしばらく、オレの会社で働いてもらうことになる。たのんだぞ」

男はヘンダースンに差し出された手をにぎると、ほほえんだ。

「ありがとうミスター・ヘンダースン。オレの名前はリチャード・サイモン、 ……ということになっている」

自分で言ったことばに苦笑いしたあと、サイモンは話をつづけた。

「なにしろ記憶がないものだから、この名前が本物なのか自信がもてなくて…… 」

サイモンはソファーにもたれかかった。
サイモンのことばにヘンダースンも苦笑いをうかべた。

「まあ記憶はそのうちに戻るだろう。ウチには連邦で一番の技術を持ったドクターがいるからな」

サイモンはようやく、安心した表情を見せた。

ヘンダースンは立ち上がりヴァスカークを見てうなづき、サイモンをふりかえって言った。

「それじゃ、あとは事務所に帰ってから話すことにしよう」

サイモンも立ちあがり、ヘンダースンとロビーをあとにした。
ふたりが車に乗りこむと、ヘンダースンは電話をかけた。

「ヘンリーだ。あと20分でそちらにもどると、イロナに伝えてほしい」

そしてひと呼吸おいて、ヘンダースンはことばを続けた。

「それとアツコを待機させておいてくれ。そう、アツコだ。 ……わかってる。だけど彼女じゃないとダメなんだ。君のパートナーには、クリスに入ってもらうから、アツコのスケジュールをあけておいてくれ。 ……ありがとう、クリスにはわたしから説明するよ」

事務所についたとき、応接室でひとりの女性が待っていた。
ブロンド・ヘアの女性はクラリッサ・マクドゥガルであると紹介された。

ヘンダースンはサイモンに応接室で待つように言い、マクドゥガルに仕事の説明をするように指示した。
それからヘンダースンは、あわてたように会議室へとむかっていった。

数時間後サイモンはクラリッサに、ヘンダースンの部屋へと案内された。
部屋の前でも女性がひとり、サイモンたちを待っていた。
サイモンはその女性が気になり、立ち止まった。
そしてそこに立ったまま、何も言えずにその女性を見ていた。

ところがその女性のようすは、それ以上におかしかった。
サイモンを見るとひどくおどろき、何か信じられないことでもあったような顔つきをしたのだ。

だが、すぐに気をとりなおしてクラリッサに準備はできていると言った。
クラリッサはうなづくと、サイモンを連れて部屋にはいった。
ふたりにつづいてその女性も、部屋に入って来た。
そしてヘンダースンのわきに立つと、たのまれた預かり物がどこにあるのかをたずねた。

ヘンダースンは少しほほえんでその女性に、ここにいるリチャード・サイモンを預かることになったと説明した。
さらに、サイモンがしばらくこの会社で働くことになる、と彼女に告げた。
その女性はひどくおどろいた様だったが、ヘンダースンはそのことを気にしなかった。
さらにヘンダースンは、サイモンの新しい家の場所を教えると言い、その女性にそこまで案内させると言った。

何か聞きたいことがあるかと聞かれたサイモンは、今はまだ何をきいていいのかわからないと言って首を横にふった。
それを聞いたヘンダースンは大きめのトランクを取り出し、中に入っている物をサイモンに見せた。
それは、これからの生活でサイモンが必要になるであろうと考えられ、用意された品物であった。
ヘンダースンはその中から1台のノートを取り出し、意味ありげに笑って言った。

「特にこいつは、ここでの仕事に必要だからな。もう一つの仕事にも…… な」

ヘンダースンはノートをしまうと、その女性に言った。

「アツコ、今日の仕事はこれで終わりだ。それから、明日はふたりで出社してきてほしい。以上だ」

アツコと紹介されたその女性は、サイモンに手を出して、ほほえんだ。

「カナザワ・アツコよ。アツコと呼んで」

サイモンは立ち上がり、その手を強くにぎった。
そのとき、アツコの顔がほんの少しをゆがみ、痛みをうったえた。
サイモンがあわてて手を放すと、すぐにほほえみをとりもどした。

「体力もじゅうぶんに有りそうだけど、女性のあつかいには慣れていないようね」

その言葉に、サイモンは耳まで赤くなり、それを見たアツコも少し赤くなった。

ふたりの会話を見ていたヘンダースンが、デートは今度の仕事が終わるまで待ってほしいな、とからかった。耳まで赤くなったアツコは、思い切りどなってドアを閉めた。

中からはヘンダースンの笑い声が聞こえてきた。

ネット文庫《ミナーヴァ》(C)2001-2016、三浦 郷(m-hiratsuka@nifty.com)
2001年7月18日(水)作成、2016年9月11日(日)改訂およびサイト移転

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