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プロローグ

男が目ざめたとき、そこは暗黒の世界になっていた。
まわりに広がる暗ヤミはあまりにも深く、自分が生きていることに疑いを持たせた。
だが、からだのいろいろな場所からやってくる痛みが、男に生きていることを確信させた。
痛みは強く、からだを動かすこともできなかった。
耳鳴りだけが聞こえてくる静けさの中で、男は目をこらしてあたりを見てみた。
すると、遠くの方に小さな光る点のようなものが、数えきれないほどあることに気がついた。

そのうちに男は、感じているのが痛みだけではないことに気づいた。
何か固いものに寄りかかっている感じがするのだ。
しかしまもなく、男の意識は消えかかってきた。
モヤのかかりはじめた意識の中で、男は考えた。ここはどこなのか、どうしてここにいるのか、と。
だが答えの出ないまま、男は暗黒の世界にのみこまれていった。

ふたたび男が目ざめたとき、男は見知らぬ部屋のベッドに寝ていた。
白一色に近いその部屋には、消毒薬のニオイがしていた。
あたりをよく見ようとからだを起こすと、強い痛みが男のからだに走った。
そのとき、ふいに聞こえたドアの開く音にふり返ると、そこに一人の男が立っていた。
その男はヤセてはいたが、ガッシリとしたからだつきをしていた。
金色のかみは短くかられていて、ほっそりとした顔は日に焼けていた。

黒づくめのツナギのような服を着ていて、よく見ると、左の胸には銀色に光るバッジが付けられていた。
バッジは、ナナメにかたむいた六本線のウズマキが三つ、三角形を作るようにならんでほられていた。
そしてそのバッジは、ベルトのバックルにも付けられていた。
ベルトには、あちこちにスリ傷のついた、大型のピストルがつるされていた。
それに気づいた男はあわてて身構えたが、黒づくめの男の様子をみて力をぬいた。
黒づくめの男はその様子を見ると、安心したようにほほえんで言った。

「やっと目が覚めたようだな。やられてしまったのかと思って、心配したんだぞ」

だが、男は何のことかわからない、といった様子で黒づくめの男を見つめていた。

「おい、どうしたんだ。オレだよ、セオドア・カーター、テッドだよ。まさかオレのこと、忘れてしまったわけじゃないよな? 」

そのことばにも表情を変えずに男は、黒づくめの男、カーターに言った。

「ここは?」

カーターは安心したように、ため息をついた。

「クロヴィアのパトロール病院だ。おまえは航行禁止空域をただよっていた船の中から、助け出されたんだよ」

カーターは男の顔を見たが、その表情に変化はなかった。

「だけどおまえは運がいいよ。あの空域にいたパトロールの船が見つけなけりゃ、だれもおまえに気づかなかったんだぞ」

そのことばが終わるとすぐに、男は言った。

「ありがとう。ところで、教えてもらいたいことがあるんだが、いいかな?」

男のことばを聞いたカーターは、ほほえみながら答えた。

「ああ、QXだよ。 ……で、いったい何が聞きたいんだ?」

男はしばらく考えこんでいたが、やがて思いつめた顔でことばをつづけた。

「オレはいったい、だれなんだ?」

ネット文庫《ミナーヴァ》(C)2001-2016、三浦 郷(m-hiratsuka@nifty.com)
2001年7月18日(水)作成、2016年9月11日(日)改訂およびサイト移転

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